研究活動研究者が語る 東薬の先端研究 「あったらいいな」を実現する製剤化技術

石原 比呂之 教授

薬学部 医療薬物薬学科 創剤科学教室

「物質」を「医薬品」として利用するために

天然物から抽出された有機化合物や生体内タンパク質など、様々な生理活性物質を基に医薬品を創製する創薬研究が広く行われています。これらの研究から生まれた新しい有効成分は、ただ単にヒトに投与するだけでは十分な治療効果を発揮することはできません。製薬会社で製造され、病院や薬局、患者さんの手元で保存された後に、期待された薬効が発揮されるように、有効成分の安定性や製剤の機能・品質を確保する必要があります。製剤化技術は、様々な環境下においても有効成分を安定に保存すること、更には患者さんに投与された際には確実に吸収されて効能を発揮することを可能にすること、即ち、化合物を医薬品へと仕上げるための技術です。

P1002136 3-2 900.jpg

不可能を可能にする製剤化技術

近年に新たに開発された医薬品では、従来の低分子化合物以外の有効成分として、タンパク質、核酸医薬、遺伝子などが活用されています。その中には、投与部位での吸収性や作用する細胞への移行性が極めて低い、投与後直ちに体内で分解されてしまうなど、医薬品としての活用が困難な場合があります。このような課題を克服し、有効成分を作用する組織や細胞まで届けるための製剤化技術として、Drug Delivery System(DDS)があります。核酸を搭載したナノDDS製剤である脂質ナノ粒子製剤は、COVID-19に対するワクチン製剤に代表されるメッセンジャーRNA医薬の創出に不可欠な製剤化技術です。

shishitu 900-2.jpg

生体に学び、模倣し、改良する

我々の体内には、様々な細胞から分泌される多種多様な細胞外小胞(Extracellular Vesicles, EV)が存在しており、特定の臓器間・細胞間での物質交換を担っていると考えられています。我々は、市販の牛乳から精製したEVをがん腹膜播種モデルマウスの腹腔内に投与することにより、がん細胞の増殖抑制が可能であることを確認しました。更にそのメカニズムを解明して新たながん治療法の可能性を明らかにするための研究を進めています。また、EVの膜成分をリポソームなどの既存のナノ粒子の表面に担持させ、薬物を高濃度に封入することで、EVの標的細胞に薬物を効率よく届けるための検討も進めています。

shouhou2 3-2 900.jpg

ゴールをイメージしてストーリーを考える

抗体や核酸医薬などは分子量が大きく水溶性が高いため生体膜を透過することはできません。一方、物質の細胞内への取り込み機構のひとつに細胞が粒子を飲み込む貪食(どんしょく)機構が知られており、有効成分をナノサイズの微粒子にすることで、貪食機構を利用して細胞内への移行性を改善できる可能性があります。我々は、タンパク質や遺伝子などを搭載したナノ粒子の作製技術の改良に取り組んでいます。更に、これらを実用化することを想定し、カプセル製剤化技術などを導入し、既に実用化されている製剤技術と固体ナノ粒子との適合性についても検討を進めています。

P1002241 3-2 900.jpg